2012年1月14日土曜日

世界漫遊ビジネスオンライン

私はこれまで、ネットなどで自分に都合のよい記事を見つけても保存し忘れてきた。それで、このブログを備忘録として始めてみたのだが、その都合のよい記事というのは、大概が「いてもいなくてもよい人物」とか「無駄な人」がキーワードである。だけど、そのキーワードしか覚えていなくて、肝腎な内容をしょっちゅう忘れてしまう。


夏くらいだったか、あるブログで紹介されていた記事を読んで、思い当たったことがあった。それは、青空文庫にある「世界漫遊」(ダビット ヤーコプ・ユリウス David,Jakob Julius著1859年~1906年 ダウィットと表記したりいろいろ)という短編小説である。森鴎外が訳している。森鴎外は、ほとんど読んだことが無くて、たぶん、これから先も読まないだろう。森茉莉のお父さんと思っている。森茉莉も一度読んだきり。


だけど、鴎外が訳していなかったら、この小説は読まなかった。というのも、森鴎外や他の明治の文豪?作家たちの小説は海外小説のパクリだ、彼らが翻訳した小説のほうが面白いと聞いたので読んでみようと思った次第で、マイナスの評判も馬鹿には出来ないと思う。


さて、この「世界漫遊」、19世紀当時のバブリーな話か、冒険記かと思ったら、いきなり出てきたのが、ウィーンの一流銀行に務める「いてもいなくても差し支えのない」という銀行員だった。名前がチルナウエル。原著はどうなのか疑わしい気がするが、いてもいなくてもよい人物だと執拗に随所で繰り返されて、この名前が変にしっくりしている。
このチルナウエルを「ウィインの銀行は、いてもいなくても好い役人位は置く」という鷹揚さで雇い、チルナウエルはチルナウエルで「自分がいてもいなくても好いということは自分がよく承知している」と両者の関係が収まっているのだが、あるブログで紹介されていた記事を読んで思い出したというのは、このことである。


その記事は確か、「大企業、一流企業は、いてもいなくてもよい人材を雇っている」というものであった。人件費が一人一千万円を超えても、?人か雇用しているというのだが、そこを読んだ途端に頭の中が「世界漫遊」になってしまった。
勿論、その記事は、何故無駄だと思える人材を企業は雇っているのか理由を書いていたし、軽作業のためといったことでは無かったと思う。普通なら、無駄な人件費はカットしろ、その分内部留保に回せ、株主や消費者に還元しろ、ということになるだろう。だけど、理由の箇所を全く覚えていない。それで、どのビジネスオンラインかビジネスプレスか経営コンサルタントだったかと検索してみたのだが、そんな話は見あたらない。


根拠となるものがないと困る。実際、私は世間が狭く、「そんなの当たり前、無駄な正社員なんか幾らでもいて、優秀な派遣社員やパートで補っているのに、切っていくのは派遣のほうからだ」とか、実態に対する認識が間違っているという指摘は幾らでもあると思う。まあ、だがこの小説に出てくる「チルナウエルのような人物を雇う、それくらいの余力」がなければ物語も始まらないとお茶を濁すことにしよう。


世界漫遊」では、私は、チルナウエルの身の僥倖を羨ましいと思うカフェに集う人間側である。伯爵であり中尉であり、美男子で頭もよいが自堕落な感じ漂うポルジイが「誰か僕の代わりに世界一周してみる人いませんか」という声に応えられなかった側だ。この世界漫遊の話が持ち上がったきっかけ、お金の話、チルナウエルの世界漫遊中に中尉と恋人がどうしていたか、その後二人はどうなったかという経過とともに、それぞれの立場の身の処し方、人物像、世間というものがよくわかる。でも、最後には登場人物が皆、好いところに収まる、後味の好い話である。


青空文庫にある古めかしい小説とか「まんが日本昔話」の枕部分など、コンパクトに世の流れや処世術が語られているので、なかなか興味深い。

加藤和彦
around the world


とりあえず、この曲。


★哲学ニュースから 「社内ニート」