これとよく似た感じというと、私の進歩しないピアノの弾き方がそうかもしれない。レッスンで、先生からいつも、小節の最後の音符の長さが短いと指摘される。
「音楽がどんどん前倒しになって、つんのめってますよ。慌てずに十分時間を取って次の音を準備してください」と何度も注意してくださるが、2月の終わりも何だかそんな感じがする。何も片付かないまま、3月になる。
閏年の今年は、1日おまけをもらったようだ。でも、のんびりと構えていると、音価が付点分伸びたようなもので、これもまた「伸ばしすぎ、(気持ちが)休んでますよ」と注意されるのと同じかもしれない。前倒しも駄目だし、先延ばしも駄目。今、必要な音を弾くのは難しい。
そんな2月の終わりの今日は、お遣い物の焼き菓子を買いにケーキ店へ寄った。清潔感あふれる店で、ショーケースの中の小さなケーキが、どれもくっきりと美しい。音楽で喩えると音の粒が揃って立っている、となるのだろうか。
さて、そのお店の焼き菓子なのだが、実は自分ではあまり食べたことがない。このあたりはいい加減で申し訳ないが、ギフトの焼き菓子については、どこも美味しいだろうし、まずは用途が優先であっちのお店、こっちのお店と変える場合がある。みんなで分けやすいものがあるお店、街中でいつでも買える店よりは地元のお店、気の張らない方へのお店など。でも、私はお店の情報には疎いのと、今日行ったお店の佇まいと店内の清潔感が好ましくて、そちらに寄ることが多い。
店員さんがリボンをかけながら、賞味期限の確認を聞いてきたのをきっかけに、つい前々から気になっていたことを尋ねてみた。製造日のことである。正直、お店の人を少し気を悪くさせたと思うが、売っている焼き菓子はすべてその日に作ったものです、と明るくきっぱりと答えてくれた。
私はそれを聞くと、安心して差し上げられるとほっとした。焼いてから数日経って、味が落ちたものは嫌だなと思っていた。日本のパティシエの水準は高いだろうけれど、賞味期限の問題はあると思う。
帰りがけに、お店の方が笑顔で、これはお早めにどうぞと小さなチョコをくださった。
その食べ頃のことなのだが、簡単な焼き菓子なら、自分でも作ることもあり、レシピには食べ頃についても書いているが、洋菓子店で買うときも気にするようになったのは、「フランス菓子塾 ケーキの寺子屋」さんのHPで<焼き菓子の食べ頃>を読んで以来のことである。お菓子によって寿命は違うけれど、寿命が切れたお菓子は味がぼやけて落ちる、と書かれていた。
フィナンシェやマドレーヌなどの焼きたての味と48時間後の美味しさの違いも書かれていた。仰るとおり、自分で焼いたときに出来たてを食べてみると卵の香りが立つので失敗したかなと思うのだが、外側がカリッとして美味しいし、食べ頃の時間帯になってくるとしっとりと馴染んできて美味しい。
「ケーキの寺子屋」さんは、同じタイトルの本があるらしいが、その著者とは別の方。今日、久しぶりに拝見したら、ビスキュイについての記事があった。要約させてもらうと、ビスキュイは一般的に卵黄と卵白の別立て式で作ると言われている。だが、ビスキュイとはスポンジケーキの総称であって製法は二種ある。
ジェノワーズ(暑いジェノバのジェノバ風ー温かい製法、共立て式のホットスポンジ)
ヴィエノワーズ(寒いウィーンのウィーン風ー冷たい製法、別立て式)。
だそうだ。
ご存知の方には何ということはない話かもしれないのだけど、ちょうど、ジェノバで生まれ育ったファブリツィオ・デ・アンドレの歌詞を調べていたところだったので、私はこの小さな巡り合わせが嬉しかった。昨年、11月にジェノバでは洪水が起きて、惨状が日本にも伝えられたが、日本もイタリアも早く暖かくなればいいのに、と思う。暑く、暑く。アイスクリームが溶けるほどに。暑くなればなったで、冬が恋しくなるけど。
明日から、3月。2月末のせわしさはどこへやら、どーんと3月は現れてくる。
デミタスカップより
少し大きいくらいのケーキです